『父の書斎』


去年父が急に亡くなり、空家になったままの状態の実家

季節が変わり暖かくなってきた休日に荷物の整理に訪れた

家の中はまだほとんどの荷物がそのままでありこのまま住めそうな感じだ。

定年後、母が亡くなりマンションに一緒に住まないかと同居の話をしたが首を縦には振らなかった父

1人での生活は思ったより器用に過ごしていたみたいだった

母が亡くなってから寡黙な父の住むこの家を訪れることが減ってしまっていたことへの後ろめたさが

この家にくることが今日まで時間がかかってしまったのかもしれない

そんなことを考えながら家の中を見てまわった

和室の奥の父の書斎

一緒に遊んで欲しくて忙しい父の仕事の様子を見に行こうとし勝手に入ってはいけないとよく母に叱られた部屋だ

少し埃っぽい部屋に入るとそこは時間が止まったままのように昔のままで

窓からは庭の木蓮が見え

床には本棚に入りきらない本が積み上げられている

父が座っていた椅子に座りながら、ふと子供の頃を思い出していた

当時 模型の飛行機が流行っていて週末には河原で飛ばすのだ

私は買ってもらった飛行機を1人で飛ばしながら、お父さんと飛ばす友達をうらやましく思っていた

思えば多忙の父との遊んだ記憶は少なかった

なぜだろうか

久しぶりに訪れたこの家では ずいぶんと昔のことばかり考えてしまうようだ




片付けられた大きな古い木製の机

最近では見かけないようなこの机こそが

私の記憶の父のイメージだったのかもしれない

引き出しの中には父の使っていた古い万年筆や便箋などが綺麗に並んでいる

よく見ると1段目のその奥に一冊の本が入っていた

出してみると表紙には模型飛行機の写真が


父が買っていたのだ

あの頃一緒に遊んだことはなかったのに

子供の頃の時間が蘇る・・・