『子どもの頃の思い出』

2DKのアパートに両親と兄弟4人。
子供の頃、私はそんな環境で育った、、、。

一部屋で川の字に兄弟3人で寝て、
末っ子の弟だけ両親の部屋で寝ていた。

朝起きて先ずすることといえば、布団を押し入れにしまうこと。

兄2人が先に布団を押し込むと、
残された3番目の私が布団をしまうには、一番高いところに押し込む格好になる。

まだ小さな私には、一番高いところまで布団を押し込む力が足りない。

毎朝泣きそうになりながら、布団を片付けたことを今でも思い出す、、、。

広い家に住めたらいいな。
自分の個室がほしいな。

そんな事ばかり考えていた。

中学生になるとき、親の実家に引越しをした。

田舎の家は広く、兄弟4人に念願の個室があてがわれた。

兄弟も嬉しかったのか、
それぞれの部屋に、各々の趣味を持ち込み、それぞれの時間が持てるようになった。

何年か経ち、兄弟は皆成長し、成人し、別々の職につき、結婚し、、、

そして、それぞれの家族を持った。

兄弟それぞれが、子宝に恵まれた。

私はと言うと、都会に出て、今の妻と出会い、
やっとこさの想いで、郊外に中古住宅を購入した。

自分の背丈に見合った、小さな家だ。

気がつけば、子供3人に恵まれた。
なんと、3人とも男の子。

男系の血筋なのか。

今は小さい男の子3兄弟は、一つの部屋で布団を並べて、川の字に寝かしている。

そして、毎朝の日課が布団入れだ。

私はどうしても、一番下の子の泣きべそに弱く、
ついつい手伝ってしまう。

そして、そんな私を軽くたしなめながら、
子ども好きの妻が微笑んでいる。

狭くとも、楽しい我が家だ。

しかし、いつまでもこのままではいけない、
そうとも考えていた。

私の家もそろそろリフォームする時期となってきた。
部屋がどうにも手狭なのだ。

子供もじきに個室が欲しいと言い出すだろう。

かと言って、既に敷地いっぱいの家だから増築も出来ない。

住み替えをする家計的なゆとりもない。

どうにか快適な間取りになるリフォームはできないものか、、、。

なかなか具体的な考えもないまま、一年が過ぎた。

今年の正月に何年かぶりに実家に帰省すると、私の兄弟世帯がそれぞれに帰省していた。

久しぶりに父、母と、兄弟4人、酒を飲んだ。
妻たちは、女同士で子育ての苦労を分かち合っているようだ。

私の家をリフォームすることを父母兄弟にも相談してみた。

お前たちも大きくなったものだな。と父。

すぐに話は逸れ、会話のネタは「小さかった頃の話」。

そう、布団をわれ先に入れようともがいていたあの頃の話。

兄弟ケンカしたあの頃の思い出が、兄弟の心の根っこにあったのか!

もちろん楽しい思い出として。

「そうだよね。
個室を作ればいいってもんじゃないよね。

子供の個性も育てながら、
家族同士が自然と集まるリビングにしたいな、、、。」

いつの間にか傍に来ていた妻が、ぽつりとつぶやいた。

妻には兄妹がいない。

私の実家に来るたびに「賑やかで羨ましい」と言う。

何気なく育った環境が、とても素晴らしくて価値あるものだったんだな、と今になって分かった。

これからのわが子の成長と、わが家の安心を支えてくれるような家にリフォームしよう。

わが子が成長し、独立してからも「あの頃は楽しかったな」と自然に皆集まる家にしよう。

そんな話をすると、妻は最高に喜んだ。

私は、本気でそうしようと思っている。


『父親の説教』


東京で就職してからは、めっきり家に帰ることは減ってしまった。

忙しい日々に流されて、気がつけば年に一度あるかないかの帰省。

「早く嫁をもらわないかん」

父親は実家に戻る度に、ビールを飲みながら私に説教をした。

正直、そういうのは面倒だ。

「両親の時代とは考え方が違うんだし、
いつか時期がくればいい人も現われるさ」

私はそんな考えだったので、軽く聞き流していた。

そんなやりとりを何度繰り返したことだろう。

父親の言う通りにはしたくない気持ちからか、
単に私に縁がなかっただけなのか、
十数年の月日が流れた。

そしてようやく、私は自ら結婚したいと思う人とめぐり合うことができたのだ。

そんな折に出された辞令。

自ら望んでいた訳ではなかったが、異動先はなんと故郷の町だった。

「そうか、そうか」

相変わらずビールを飲みながら話をしているが、
そこにいつもの父親のしかめっ面はなかった。

びっくりするほど目を細めて、私と彼女を見ている。

うっすら涙すら浮かべていたのに、私は気づいた。

世間体とか、そういうのがあるから父親は私に結婚しろと言っているのだと思っていた。

しかしその涙に、私は父の本当の気持ちを見たような気がした。

「心配かけてごめんな」

今、私は父親と一緒に実家のリフォームを計画している。

賃貸暮らしではもうすぐ増える家族には手狭だったからだ。

そして私は想像する。

一緒に暮らす日、父親の目はもっともっと細くなるに違いない。